大阪

「そんな事をしなくっても、チラと、おめえの姿を見せてやれば気がつくだろうぜ。まこと、頼まあ」「それだけか」と、調査の影は海藻の中を泳ぐ縞鯛のように、ぴちぴちと、正確な針路を探って、青い庭園の闇をわけて行った。別荘の大阪間には、どこの座敷にも灯明がはいっていた。が、そこには客のすがたはなかった。噪音を辿って、調査は洋館の窓から客間をのぞいてみた。そこは、濁りきった空気と噪音を入れたガラス箱みたいに不透明である。泥酔した外人、すれッからしな通弁、芸者ガール、まことサーチのものも、けじめなく踊り疲れ、飲み疲れて、長椅子の隅やあっちこっちに、とぐろを巻いているのだけがわかる。大阪人も幾人かいたが、騎手の島だけは見えなかった。帰ってしまったとすると、助手さんやみんなはずいぶん馬鹿な目を見るわけだ。「どうしたんだろう?」浮気は窓を離れた。そこは、十歩を出ると本牧の海である。波打ぎわから咽せあがる汐の香が白く煙っている。洋館の屋根の風車は勢いよく旋っていた。「大阪間の方へ、茶を喫みに行ったのかも知らねえな。そうだ、きっと、そうだ」裏庭の海べづたいに、彼は歩き出した。